ちとふかし。

深い海の魚が好きです

長崎にて深海延縄漁。

こんにちは。

少し前の話になるのですが、長崎で深海延縄漁をされている漁師さんのご厚意で、漁に同行させていただきました。

地形変化のなだらかな東シナ海において、深海漁というのはあまりなじみがなく、いったいどこで操業されるのか、何がとれるのかとわくわくして臨みました。

 

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長崎沖の東シナ海Googleマップで見てみると、全体的に起伏が無く遠浅な海が続いているように見えます。

しかし、矢印で示した部分は水深800mほどまで落ち込んでいるようです。

五島列島の手前には五島海底谷とよばれる谷もあります。

ただ、深海底に至る斜面までは遠く、海域全体が平坦なことから、この凹んだ場所は、まるで”水深800mの大きなタイドプール”のようになっています。

今回はこの凹みのきわ、長崎近海東シナ海の水深200-800mの緩やかな斜面にて調査を行いました。

 

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明朝1時の出航。写真は月の入りです。

全日はわくわくであまり眠れませんでした。

 

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夜光虫の発光です。航跡波が刺激になって海面の夜光虫が光ります。

ちょうど海があたたかくなる時期ということもあってか、ものすごい量の夜光虫がいたのでしょう。

夜、船に乗るとこういう発光現状はよくみられるのですが、今回のように、鮮明に写真が撮れるほどのものは初めてみました。

 

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餌はサンマのぶつ切り。

1縄1000本近い針を深海におろします。

ポイントにつくまで2時間ほど、そこから縄の投入に1時間。さらに1時間ほど食い待ちの時間があって、ちょうど日が昇るころに一縄目を回収します。

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深海釣りに行く時もだいたいそうですが、水深800mからの巻き上げとなると流石に時間がかかります。

ドキドキしながら待ちます。

f:id:ORCINUS:20210523063537j:plain仕掛が見え始めると早速魚影。

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サガミザメでした。

(ヘラツノかどうか、難しいところですが、水深が深くかつ色味が茶色、第一背鰭が大きいなどから判断)

今回、すごい量のサガミザメがかかっていました。

熊野灘における水深500 mの優占板鰓類が本種であるという文献を見たことがありますが、この海域(というか漁場)でも本種が卓越しているのだなぁなどと納得してしまいます。

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サガミザメと併せてものすごい量釣れたのがカラスザメの仲間。

上がフジクジラで、下がホソフジクジラです。

フジクジラは水深500-800 m、ホソフジクジラは300-500 mの海域で採れました。

これらの仲間が生息水深による住み分けをしているのでは?という感覚があるのですが、まさに水深によって異なる種が出現したのでちょっと興奮。

 

しかし、縄のほとんどに、この2種のどちらかとサガミザメがついていて、しばらく見なくてもいいかなってくらいには満足しました。

ものすごい資源量があるのか、群れるような場所にピンポイントで落としてしまったのか。現時点で調べるつもりはないのですが、良いネタになるかもしれません。

f:id:ORCINUS:20210523125658j:plainあまりなじみのない種類もぽつぽつ上がります。

これはツマリツノザメ。

全体的に黒みがかったツノザメで、最初見たときはなんだかわかりませんでした。

ツノザメの仲間も生息域にけっこうこだわりがあるようなイメージがあったので、知らない海域には知らないツノザメがいるものだなぁなんて思いました。

f:id:ORCINUS:20210523125341j:plain延縄漁。すごい量の板鰓類がとれます。初体験です。

底曳じゃここまで豊富な種類なかなか見られないので楽しいです。

上から、ヘラザメ、サガミ、サガミ(ヘラツノっぽい?)、サガミ、ヤモリザメ、ヤモリザメ、ツマリツノザメです。このほかにユメザメもみられました。

ただ、定説では水深500mを超えたあたり魚類相が変わり、普通の日本近海の大陸斜面だとニセカラスやら、ビロウドやら、マルバラユメなんかが見られるはずなのですが、本調査では500m付近の魚が800mまで分布しているような印象でした。そこに、南方系のツマリツノやヤモリなどが入っているといった印象です。

 

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でっかいウスエイ。

どこでもぽつぽついる魚っていうイメージです。

でかいと興奮しますが、この個体は体盤長は1.5mを越えていて、全長だと2mほどありそうだったのでリリースしてもらいました。

車出来てたら持って帰れるのになぁ…。

 

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水深200mのポイントでやっとお目当ての魚が!!

 

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極めて美しいギンザメのオスです。

引き上げたときは黒色の縦線がはっきり見えました。

氷で〆ると一時的に線は薄くなり、死後時間がたつと(粘液を落とすと)また黒い線が現れます。

この白銀のギンザメは極めて鮮度が良い時にしか見られません。

とても美しい。美しい…!素晴らしい!!

本種が採れた時点で、今回のサンプリングは目的完遂。お疲れさまでした!!

 

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海は深い深い青に染まっていました。

波もなく心も晴れやかな気分です。

調査にご協力いただいたY船長と案内してくださったYさん、本当にありがとうございました!!

 

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帰りがけ、海から軍艦島を眺めました。

いやぁ、長崎に来てたんだなぁ。

こういうものにも目がいくのは心穏やかな証拠。

ありがとう、ギンザメさん。

この個体は既にゲノム抽出をされ、いろいろな手法でシーケンスされています。

質の良いゲノムが取れてハッピーです。本当に皆さんに感謝です。

 

 

=オマケ=

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キハ66、67です。

国鉄の置き土産で、長崎地区にのみ運用が残っていました。

この調査の後、惜しまれつつ引退しました。

私としてもぜひ見てみたかった車両だったので、この時期に調査を入れることができてハッピーでした。

もう見ることはできませんが、最後の最後にこの形式の写真が撮れただけでも思い出ものです。